森と音楽と、湯気の向こう側。初めての野外フェス出店でみつけた
朝5時の静寂から、鳴り響くベースライン、そして夕暮れの1杯まで。
ずっと憧れていた、山奥で開催される野外音楽フェスへの出店。いつも通りの店舗を飛び出し、車いっぱいに道具を詰め込んで、大自然の中に1日限りの「青空珈琲店」をオープンしました。普段のカウンター越しとは全く違う、音楽と風が心地よく通り抜ける場所で、私と、お店の豆たちが経験した忘れられない1日の日記です。


まだ音が鳴り始める前の会場は、驚くほど静かだった。ひんやりとした朝の空気を吸い込みながら、木製のスタンドを組み立てる。少し手がかじかむけれど、この寒さこそがコーヒーを一番美味しくしてくれる最高の調味料だ。最初のお客さんは、夜通しテントで過ごしたというスタッフの方。「助かります」と受け取ってくれたカップから立ち上る湯気が、朝霧の中に溶けていくのを見て、私の長い1日が始まった。
昼を過ぎると、お目当てのアーティストのステージが終わるたびに、ドッと人が押し寄せてきた。お気に入りのリネンシャツは、いつの間にかコーヒーのシミと、飛び散った粉でいっぱいに。それでも、遠くから聞こえる重低音のベースラインに体を揺らしながら、ひたすら豆を挽き、お湯を注ぎ続ける。 「ここのアイスコーヒーのおかげで、次のステージも最前列で行けます!」 そう言って笑う女の子の笑顔が嬉しくて、疲れなんてどこかへ吹き飛んでしまった。
メインステージの大トリの曲が響き渡る頃、空は綺麗な茜色から紫色のグラデーションへと移り変わっていった。客足も落ち着き、ようやく自分用に淹れた今日最後のドリップ。1日中動き回った足の痛みを忘れるほど、染み渡る味わいだった。 「日常から離れた場所で、誰かの特別な1日に寄り添う」 そんな移動店舗の原点を、この大自然の真ん中で改めて思い出させてもらった気がする。片付けを終えた車を走らせながら、早くも次の「旅する出店」の計画を考えている自分がいた。